カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ムーの白鯨21話脚本:様々な主義主張

ムーの白鯨』は1980年放映のオリジナルアニメ作品。地球征服を目論むアトランティスと、転生したムー大陸の戦士達との戦いが描かれる。監督は今沢哲男氏。
今回の演出は山吉康夫氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

宇宙船(武装あり)へ変身した白鯨(太古の文明・ムーの守護神)に乗り、剣(主人公。ムーの戦士の子孫)達ムー戦士は、宇宙を漂流するアトランティス大陸へ到達。
それを迎え撃つコンドラ(アトランティスの女帝)は、卑劣な作戦を思いつく。

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宇宙船と化した白鯨(太古の文明・ムーの守護神)に乗り、剣(主人公。ムーの戦士の子孫)達ムー戦士は、宇宙を漂流するアトランティス大陸に到達。その全貌は、まさに自然の要塞。
「自然の要塞」という要素は忍者戦士飛影(脚本)にも見られた。

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剣達は白鯨を直進させるが、張られたバリアにぶつかってしまう。罠にかかった白鯨を見て、コンドラ(アトランティスの女帝)は高笑いする。忍者戦士飛影カイジ2期(脚本)など、敵の用意周到さやキレの良さは強調される。

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一旦砂漠まで撤退した白鯨を、コンドラは人工竜巻やトラップを使って攻撃。更に、宇宙に逃れた白鯨を戦闘機部隊で追撃する。忍者戦士飛影(脚本)のハザードやトンデケマン(脚本)のアブドーラなど、凝った作戦を好む敵キャラは色々な作品で印象的。

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だが、白鯨は追撃部隊相手に善戦。それを見たザルゴン(コンドラの夫で、アトランティス皇帝)は苛立ち、コンドラを叱責する。
理不尽な上役に苦労させられるのは、忍者戦士飛影カイジ(脚本)などでも強く表れている要素。

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そこでコンドラは、投獄されていたラ・メール(アトランティス王子・プラトスの副官で、彼と恋仲)を呼び、彼女がラ・ムー(ムーの長)の娘だと告げる。
ラ・メールはショックを受ける。複雑な出自により自己と向き合うのは、F-エフ-・おにいさまへ…(脚本)でも描かれた。

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コンドラは、ラ・メールを囮に使って、オリハルコン(アトランティスが獲得した強大なエネルギー)の力で白鯨を異次元に飛ばす作戦を立てる。プラトスは、それは非道だと反対するが、コンドラは手段など選んでいられぬと一喝。純粋さと狡猾さ、正道と非道のせめぎ合いは、蒼天航路・1980年版鉄腕アトム(脚本)でも前面に出ている。

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ラ・メールは、自分はアトランティス人だとして、囮役を買って出る。
案じる必要は無いと、彼女はプラトスに微笑みかける。RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…・F-エフ-・グラゼニ(脚本)など、色々な感情を含む「微笑」は印象深い。

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そして、ラ・メールは戦闘機に乗り、白鯨のもとに向かう。それを見た譲(転生したムーの戦士。兄貴肌)や学(転生したムーの戦士。博識)は、これは罠だと剣に主張。
グループ内で冷静派や頭脳派が目立つ展開は、RAINBOW-二舎六房の七人-・ガンバの冒険(脚本)にもあった。

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剣は、このまま何もしなければ、ラ・メール(剣達は既に、彼女がラ・ムーの娘だと知っている)も助けられず、何も成せないと譲に力説し、譲は折れる。
熱い主人公と、兄貴肌だったりニヒルだったりするキャラとの関係は、ガンバの冒険(脚本)などでも目立つ。

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一方、幼少時の記憶がちらついたラ・メールは、無意識にトラップの射程外へと白鯨を後退させ、白鯨は助かる。それを見てプラトスは微笑む。ここも、色々な感情を表す微笑。
RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニ(脚本)と比較。

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作戦失敗の責を問われ、ラ・メールは再び投獄される。彼女は自身の行動に思い悩むのだった。複雑な家族関係に翻弄されるドラマは、おにいさまへ…あんみつ姫(脚本)でも描かれた。

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  • まとめ

敵味方、善悪問わず、凝った作戦を考えるキャラが強調または優遇されるのが面白い。手の込んだ作戦のオンパレードであるアカギ・カイジワンナウツのシリーズ構成・脚本でも、それは大いに表れている。

大いなる目的のためには、または戦争に勝つためには手段など選んでいられないというのもまた、様々な作品に表れている要素。とにかく高屋敷氏は、善悪のラインを明確に引かない傾向がある。

ラ・メールが自分の出自を知りショックを受けるのは、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)や、おにいさまへ(脚本・シリーズ構成陣)で描かれた「自分とは何か」に繋がるものがある。このテーマは重要で、様々な作品に深みを持たせている。

あと、「色々な感情を含んだ微笑」について。原作つきアニメでは、これの追加により、ニュアンスが原作と大きく異なっていくこともある。この時代(1980年)から確認できるのには驚いた。

そして、勝つためには正道も非道もないと主張しつつも、純粋で熱い心も完全に否定されるべきではないというのは、今回の場合、プラトスや剣の言動に出ている。この「バランス」が上手い。とにかく高屋敷氏は、人間の色々な側面を捉えることに長ける。

また、高屋敷氏の得意分野「キャラの掘り下げ」が、今回も成されている。アイデンティティが揺らぎ、思い悩むラ・メールの感情や行動が細かく描かれたと思う。また、プラトスが相変わらず好人物であるというのも積み重なった。

こう見ていくと、今回は敵側のドラマが濃厚に描かれているのに気付く。
本作における高屋敷氏の脚本回は今回のみだが、同氏らしい、複雑な人間模様・主義主張が表れている話だった。