カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

怪物くん(第2作)4A話脚本:潜伏する主張

アニメ・怪物くん(第2作・1980年放送開始)は、藤子不二雄A氏の漫画をアニメ化した作品(白黒版第1作アニメもある)。人間界に来た怪物ランドの王子・怪物くんらによる騒動を描く。監督は福富博氏。今回のコンテは山崎勝彦氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、怪物くん(第2作)に関する記事一覧(本記事含む):

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E6%80%AA%E7%89%A9%E3%81%8F%E3%82%93

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  • 今回の話:

怪物ランドの名音楽家・プカドンが、ふらりと人間界にやってくる。ふとした切欠で、楽器を弾けるようになりたくなったヒロシ(怪物ランドの王子・怪物くんの親友)は、プカドンに音楽を教わる。

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上の階の住人の、下手なバイオリンに悩まされるヒロシ(怪物ランド王子・怪物くんの親友)は、アコ(女友達)にそれを愚痴るが、バイオリンを習っているアコを不機嫌にさせてしまう。「あちゃー」というリアクションは結構見られる。ワンダービートSカイジ2期・あしたのジョー2(脚本)と比較。

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そこにキザオ(嫌味で金持ちな少年)が通りかかり、アコを上手くおだてる。すっかり上機嫌になったアコを見て、ヒロシと怪物くんは「な、こうだよ」と呆れる。この台詞はアニメオリジナルで、スタッフの本音がそのまま出ている気がする。

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トランペットを習っているキザオはアコを合奏に誘い、二人は去る。
ヒロシは楽器を弾けたらモテるだろうと妄想し、怪物くんが彼を現実に引き戻す。怪物くんのリアクションはアニメオリジナル。友達同士の愛嬌あるやりとりは、多くの作品で目立つ。F-エフ-・グラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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怪物くんは、(怪物くんの)屋敷にある楽器で練習したらどうだとヒロシに提案する。早速やってみる二人だが、下手なため猫が塀から落ちる。猫はアニメオリジナル。太陽の使者鉄人28号(脚本)では意味深な黒猫が出たり、ど根性ガエル(演出)では猫が目立ったりしており、比較すると面白い。

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そこへ、けたたましい音を鳴らす怪物(プカドン)が現れる。怪物くんは、勝手に屋敷の庭に入ってきたプカドンを叱るが、人語が通じず会話は難航する。どこかプカドンが可愛い。とにかく高屋敷氏の担当作は、キャラが可愛くなる。ガンバの冒険(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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騒ぎを聞きつけた狼男(怪物くんの家来で、料理が上手い)は、プカドンは偉大な音楽家なのだと怪物くんに説明する。
狼男はプカドンに食事を提供する。原作通りだが、飯テロや食事場面は高屋敷氏担当作に非常に多い。ルパン三世2nd・元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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騒ぎが一段落して、ヒロシはもう一度太鼓の練習をしてみる。太鼓の音を聞いたプカドンは、身ぶり手ぶり(自分の体で音楽を奏でられる)でヒロシに演奏を教える。言葉が通じなくても心が通じるのは、あしたのジョー2(脚本)でも印象的。

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怪物くんもラッパで加わり、プカドン・ヒロシ・怪物くんの演奏は見事なものになる。音色を聞いた狼男や、ドラキュラとフランケン(いずれも怪物くんの家来)は感嘆する。皆に笑顔が広がる展開は数多の作品で強調される。トンデケマン・あんみつ姫(脚本)と比較。

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自信をつけたヒロシと怪物くんは、キザオの家に行く。ヒロシは、有名な先生に太鼓を習ったと言って、怪物くんと目くばせする(アニメオリジナル)。ここも友情が可愛い。RAINBOW-二舎六房の七人-・F-エフ-・じゃりン子チエ(脚本)ほか、微笑ましい友情は多くの作品で前面に出される。

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いざ合奏が始まると、キザオもアコも非常に演奏が下手で、それに合わせたヒロシの太鼓も加わり、ひどい騒音に。下手な演奏や歌でひどい目にあう話は、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、じゃりン子チエ(脚本)にもあり、それを彷彿とさせる。

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たまらず退散した怪物くんが屋敷へと向かっていると、バイクに乗った二人組が通りすぎるが、彼らは転倒する(アニメオリジナル)。カイジ2期(脚本)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)など、高屋敷氏は、モブや名無しキャラを地味に目立たせる。

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屋敷の前では、狼男ら家来達が倒れていた。ひどい騒音にやられたらしい。そこへ、再び騒音が発せられ、ガラスが割れたり、電柱が折れたりする。状況と連動する「物」の描写は多々ある。おにいさまへ…コボちゃん(脚本)と比較。

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騒音のもとは、眠るプカドンの歯ぎしりだった。騒音はともかく、眠りこける姿に愛嬌をつけるのは、結構色々な作品にある。宝島(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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(同様に騒音被害にあった)バイク乗りの二人は、「どうなってるんだこの家は」と驚愕するのだった(アニメオリジナル)。ここもモブが目立つ。まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ストロベリーパニックグラゼニ(脚本)のモブと比較。

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  • まとめ

あくまでネタだが、狼男・ドラキュラ・フランケンのトリオが、カイジ2期(シリーズ構成・脚本)の大槻・沼川・石和トリオに重なってしょうがない。ネタで片付けずに考えると、キャラの魅せ方が共通するのかもしれない。

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今回印象深いのは、プカドンとヒロシ・怪物くんが言葉ではなく音楽で意志疎通するところ。前述の通り、あしたのジョー2(脚本)の、言語の垣根を越えたホセと丈の意志疎通を思わせる。

また、演奏をすることで皆に笑顔が広がるところも、かなりの強調が見られる。
とにかく皆で笑顔になる、心温まる場面は非常に多くの高屋敷氏担当作に見られ、「笑顔」への強いこだわりが感じられる。

あと、相変わらずキャラの愛嬌が目立つ。高屋敷氏は、演出側のときは動作づけなどで、脚本側のときは話運びなどで、キャラの「可愛さ」を引き出すのが非常に上手いのだと思う。老若男女に適用されるのも面白い。

細かいところでは、原作と少し話の順序を変えたり、出来事が起きた時間を短縮したりといった工夫が見られる。これは原作つきアニメで高屋敷氏がよくやる事の一つで、調整が細かいのが特徴。とにかく同氏は色々な計算が綿密。

そして毎度のことながら、原作をアニメに落とし込むための技術力・計算力が高いことに驚かされる。しかも時代を経るごとに、それが複雑になっていくのも凄まじい。
原作をアニメにするための調整の複雑さと細かさは、特にワンナウツ(シリーズ構成・脚本)が驚異的。

ほぼ原作通りでありながら、自分の主張を通す、(いつもの)手の込んだ仕掛けも確認できる。先に述べた、「音楽で意志疎通する」「皆に笑顔が広がる」は、原作ではアニメほど前面に出ていない。主張は温かいが、技術的には(いい意味で)恐ろしい。

最後にモブが目立つというのも、高屋敷氏らしさが出ていると思う。バイク乗りというのは、監督や他のスタッフにバイク好きがいて、脚本が改変されたかもしれないが。また、同氏は多段オチを好む傾向があり、それも今回出ている。

Aパートのみ(実質11分前後)の短い話とはいえ、「原作通りなのに自己の主張を出す」という、高屋敷氏のいつもの技術が見られるのが今回のハイライト。これがシリーズ構成作ともなれば、複雑な計算がし尽くされたものになる。その1単位が見られた回だった。