アンパンマン490B話脚本:月と男気
『それいけ!アンパンマン』は、やなせたかし氏の絵本を原作とした国民的アニメ。
監督は(基本的に)永丘昭典氏。
今回の演出/コンテは鈴木寿美氏で、脚本が高屋敷英夫氏。
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- 今回の話:
チーズ(パン屋のジャムおじさんの飼い犬)は、ばいきんまん(アンパンマンの宿敵)に連れ去られたレアチーズ(チーズのガールフレンド)を助けるため奮闘する。
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夜、チーズ(パン屋のジャムおじさんの飼い犬)は月に願かけする。ガンバの冒険・ストロベリーパニック・RAINBOW-二舎六房の七人-・めぞん一刻(脚本)ほか、月は頻出。
全てを見ていたり、願いを聞き届けたりする存在として扱われる。
そんなチーズを見たバタコ(ジャムおじさんの助手)は、チーズは食いしん坊だから、おいしい食べ物を沢山食べたいのだと推測(アンパンマンは、空を飛びたいのだと推測)。ど根性ガエル(演出)、チエちゃん奮戦記・ガンバの冒険(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)など、食いしん坊描写は多い。
チーズの願いはレアチーズ(ジャムおじさん達の友人・ウサコの飼い犬)に会うことで、丁度明日、彼女達と会えることに。喜ぶチーズを見てアンパンマンは微笑む。微笑は、重視される感情表現。RAINBOW-二舎六房の七人-・ムーの白鯨・グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。
翌朝、ウサコとレアチーズが来るのが待ちきれないチーズは、彼女達を迎えに行く。道中チーズは、レアチーズへ渡すための花を詰む。花を贈る場面は結構ある。マイメロディの赤ずきん・おにいさまへ…・ストロベリーパニック・ミラクルガールズ(脚本)と比較。
だが、情報を得ていた、ばいきんまん(アンパンマンの宿敵)がウサコ宅の前に現れ、チーズが持ってきた花を滅茶苦茶にしてしまう。怒ったチーズは、ばいきんまんに噛みつく。怒りで豹変するのは、色々な作品で見られる。火の鳥鳳凰編(共同脚本)と比較。
嫌がらせは続き、ばいきんまんはレアチーズを拐う。それを追って崖を登るチーズを、ばいきんまんは油をまいて妨害する。油をまくトラップは、ど根性ガエル(演出)を彷彿とさせる。
隙を見て、ばいきんまんに抵抗したレアチーズと、それを助けようとしたチーズは崖から転落するが、下が川だったので助かる。同じようなシチュエーションが、忍者戦士飛影(脚本)にもある。
ばいきんまんは、再びレアチーズを捕まえて飛び去る。太陽+航空機や宇宙船の絵面は結構出てくる(脚本作でも出るのが不思議なところ)。ガイキング(演出)、忍者戦士飛影(脚本)と比較。
チーズは、ばいきんまんの円盤のコクピットに飛び付き、ばいきんまんに噛みついてレアチーズを救出するが、岩壁に追い詰められる。これも、似たシチュエーションが忍者戦士飛影(脚本)に存在する。
そこへ(ウサコから情報を得ていた)アンパンマンが駆けつけ、チーズ達を救う。
だが、ばいきんまんの水風船攻撃でアンパンマンはパワーダウン。高屋敷氏は、水ぶっかけに縁がある。F-エフ-・カイジ2期・らんま1/2・じゃりン子チエ(脚本)と比較。
レアチーズは、ドキンちゃん(ばいきんまんの相棒)のマシンに乗り込み、マシンを暴走させてジャムおじさん達のもとに行き、アンパンマンのピンチを知らせる(ここでドキンちゃんは退場)。空手バカ一代(演出/コンテ)、ルパン三世2nd(脚本)ほか、女傑は結構目立つ。
アンパンマン号(ジャムおじさん達のマシン)で駆けつけたジャムおじさん達は、アンパンマンに新しい顔を供給。妨害するばいきんまんを上手くよけて、チーズは新しい顔をアンパンマンに渡す。ルパン三世2nd(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、カイジ2期・ワンナウツ(脚本)ほか、ナイスコンビ・チームプレーは強調される。
新しい顔を得て復活したアンパンマンの一撃で、ばいきんまんは敗退。
その後、ジャムおじさんはウサコをクッキーでもてなす。飯テロは頻出。ガイキング(演出)、コボちゃん・マイメロディの赤ずきん・ストロベリーパニック・おにいさまへ…(脚本)と比較。
チーズとレアチーズは、一緒に月を見上げる。ジャムおじさんは、いつまでもレアチーズと仲良くしたいと、チーズは月に願っていると言うのだった。終盤での月の描写はよくある。はじめの一歩3期・F-エフ-・マイメロディの赤ずきん・ストロベリーパニック(脚本)と比較。
- まとめ
月で始まり月に終わるという構成についてだが、色々な作品で、月と太陽は重要な役割を担っており、今回は、月への願かけという形で、月の神格化が見られる。
高屋敷氏の、月への思い入れが直球で表れている。
最終的にアンパンマンが解決するものの、今回はチーズの奮闘と男気が中心となっている。やれるだけのことは全力でやることで、「男」の入り口に立つ少年(今回は雄犬だが)の姿は、宝島(演出)や怪物王女(脚本)でも印象深い。
峡谷でのアクションは、忍者戦士飛影(脚本)と共通するものが多い。助ける側が男女逆だが、今回も忍者戦士飛影も、恋が進展するのが、比較すると面白い。
ところで、チーズとレアチーズは人語を話さない。このことは、結構話を組み立てるのが難しそうな要素だが、台詞だけに頼らず、情緒や状況、物や自然などを使った表現が多い高屋敷氏にとっては、腕の見せどころなのかもしれない。
あと、飯テロは頻出なわけだが、お菓子系ではクッキーの頻度が高いのが明確になりつつある。時代的に一番古いクッキー描写は、(今のところ)1976年のガイキング(演出)かもしれない。こちらも、非常においしそうである。
何故クッキーなのかは不明だが。
チーズの「男気」について話を戻すと、人語を喋れないのに、ドラマや感情が見られて面白いし、チーズというキャラを掘り下げてもいる。
キャラの掘り下げもまた、高屋敷氏の得意とするところ。
クライマックスの、チーズとアンパンマンのナイスコンビプレーについては、高屋敷氏の野球経験(元球児、高校野球部監督)も多少関係しているかもしれない。野球も、バッテリーや二、三遊間などのコンビが重要になる。ちなみに同氏は高校時代、遊撃手だった。
序盤の、チーズを見るアンパンマンの笑顔についてだが、やけに印象に残る。高屋敷氏の担当作では、「笑顔」が強く描写される。中にはキャラ崩壊スレスレのものもあるが、「孤独は万病のもと、食と笑顔は万能薬」といったような、同氏の強いポリシーを感じる。
アンパンマンという作品自体、「食」と密接な関わりがある。時々、アンパンマンは自分の顔(アンパン)を子供に分け与えることがあるほどだ。高屋敷氏のポリシーである「食と笑顔」との親和性は高いと言える。
今回は、月・笑顔・男気・食…と、短い尺(11分前後)の中に、高屋敷氏が強調したい要素がギュッと詰まっており、かつ(子供向けのため)直球なので、同氏のポリシーを探る上で非常に貴重な回だった。