カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

『あしたのジョー2』15話脚本:愛の対比

アニメ『あしたのジョー2』は、高森朝雄梶原一騎)氏原作、ちばてつや氏画の漫画をアニメ化した作品(第2作)。風来坊の青年・矢吹丈がボクシングに魂を燃やし尽くす様を描く。監督は出崎統氏。

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  • 今回の話:

コンテ:出崎統監督、演出:竹内啓雄氏・大賀俊二氏、脚本:高屋敷英夫氏。

激闘の末、世界ランカーのカーロスを倒し勢いに乗る丈。次の対戦相手が中々決まらなかったが、東洋ランカーのソムキットと対戦することに。

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冒頭、ドヤ街(丈達のボクシングジムの地元。東京の下町)の子供達の姿が川面に映る。鏡描写は色々な作品に見られる。ガンバの冒険おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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キノコ(ドヤ街の子供の一人。帽子姿)は段平(丈が属するジムの会長)に、丈の次の対戦相手はまだ決まらないのかと詰め寄るが、段平に喫煙を叱られる(アニメオリジナル)。児童喫煙を咎める場面は、はだしのゲン2(脚本)にもある。

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適当に段平にあしらわれた子供達は、段平にあかんべーする。舌を出すゼスチャーは結構見られる。ハローキティのおやゆび姫(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、おにいさまへ…(脚本)と比較。

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なおも煙草を吸おうとするキノコを、サチ子(ドヤ街の子供達の一人。紅一点)が下駄でどつく。じゃりン子チエ(脚本)に雰囲気が似ているほか、ダイナミックなツッコミは、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、家なき子(演出)と重なる。

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次の丈の対戦相手について、段平は裏で葉子(白木ジム新会長)と話を進める。そんな中、丈は早くホセ(世界王者)とやりたいと口にするが、冗談だと笑う。満面の笑顔が出る状況は、忍者戦士飛影ダンクーガ(脚本)などでも印象に残る。

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後日、葉子によって(原作だと段平によって)丈の次の対戦相手がタイの東洋ランカー・ソムキットに決まる。段平は嬉しくて飲酒。愛嬌ある泥酔場面は、宝島(演出)、カイジ2期(脚本)、ど根性ガエル(演出)、陽だまりの樹(脚本)など様々な作品にある。

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早速、段平は丈に対戦相手が決まったことを報告。ここも段平がかわいい。
ガイキング(演出)、ワンナウツ(脚本)、宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)など、高屋敷氏は中高年キャラのかわいさを表現するのに長ける。

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段平をよく知る丈はすぐに、この話の裏にいる人物(葉子)を見抜く(アニメオリジナル)。
選手とジム会長の密接な関係は、はじめの一歩3期(脚本)でも強調されている。

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丈は葉子に電話し、事の次第を理解したと伝える(アニメオリジナル)。電話による会話が重要なポイントになるのは、MASTERキートン・F-エフ-(脚本)などにも見られる。

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そして、丈とソムキットの対戦決定はマスコミにより大々的に報道される。
新聞見出し演出は、結構出てくる。
1980年版鉄腕アトム・アカギ(脚本)と比較。 

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その後、西(丈の旧友。現在八百屋勤務)が訪ねてきて、食糧を差し入れする(アニメオリジナル)。ガンバの冒険・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)ほか、とにかく高屋敷氏は、「食」にこだわる。

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ソムキットの公開スパーリングを見て危機感を募らせた段平は、手帳に書いたトレーニングメニューを丈に見せる。手から手への感情伝達は頻出。ストロベリーパニック(脚本)、宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。

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ふとボクシング雑誌を読んだ丈は、試合までには帰ると言い残してジムを飛び出し、西を訪ねる。西は歓迎し、最近コーヒーサイフォンを買ったので本物のコーヒーが飲めると話す(アニメオリジナル)。空手バカ一代(演出/コンテ)でも、サイフォンが出る。

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丈は玄関で背を向けたまま、ある人を訪ねに遠くに行きたいので金を貸して欲しいと言う。背中で語る場面は、色々な作品にある。グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-・ワンナウツ(脚本)と比較。

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西は、出たばかりの給料を全額、丈に渡す。こういった無償の優しさは、宝島(演出)、RAINBOW-二舎六房の七人-・カイジ2期・MASTERキートン(脚本)などでも強調されている。

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丈は、西にボクシング雑誌を見せる。そこには、カーロス(丈の好敵手)が記憶喪失状態であると書かれていた。街灯のランプが映るが、ランプは頻出。カイジ2期・RAINBOW-二舎六房の七人-・RIDEBACK(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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西に、カーロスに会うにはビザやパスポートの手続きが必要ではないかと言われた丈は、葉子と喫茶店で会う。葉子は、カーロスに会いたいという丈の思いを見抜く。葉子と飲むコーヒーは、先の西が言っていた“本物のコーヒー”と良い対比になっている。 

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カーロスは病院を抜け出して行方不明だと葉子から告げられ、丈は海外渡航を断念。丈は金を西に返す。一方段平は、丈の帰りを、寒さに耐えながら待っていた。それぞれの“愛”が見える良アニメオリジナルだと思う。

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段平は、帰ってくると信じていた、セッティングのあれこれで少しスネただけだったんだろう、と言いつつ丈のトレーニングに付き合う。おじさんの少しズレた反応は、ワンナウツカイジ2期(脚本)でも印象に残る。

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そして試合当日。実況アナが名調子だが、名実況はグラゼニらんま1/2(脚本)などなど数多い。

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丈は、ソムキットを1RでKOする。試合後のインタビューで、東洋ランカー相手にモタモタしていたらカーロスに申し訳ないと思った、と丈は語るのだった。
カーロスに会いに行こうとしたアニメオリジナルの流れが、上手くここ(原作通り)で繋がっている。

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  • まとめ

原作の流れに、ドヤ街の子供達、葉子、西などを上手くアニメオリジナルで絡ませている。登場人物の繋がりを強化する組み立てに、高屋敷氏は長ける。

今回の話は、“カーロスに申し訳ないと思った”という、丈の試合後コメントから逆算して、アニメオリジナルで話を膨らませている感じがする。

カーロスの惨状を聞いたら、丈はこう動き、こう葉子が絡むだろうといった具合に、計算がきっちり成されている。

出崎統監督は原作を大幅に変えることで有名だが、なぜ変えるか、変えた場合どうなるか、周囲はどう動くか、は割ときっちりしており、高屋敷氏は、その「きっちり」さに大いに貢献していると思う。

とにかく高屋敷氏の脚本はシステマチックで、年を経るごとに、その緻密さは増す。この年代(80年代)で既にその傾向が出ているのは、今回原作と比べながら、あらためて見てみて、新鮮な驚きだった。

高屋敷氏の超技巧的な脚本の基本型のようなものは、じゃりン子チエ(同氏脚本参加)で出来上がったと思っているので、年代的にその直前にあたる本作もまた、技巧的であるのは自然な流れかもしれない。

割と長い間、高屋敷氏の担当作を見てきたが、同氏の“演出の師”は出崎統氏で、“脚本の師”は(じゃりン子チエ監督時の)高畑勲氏だと感じられる。そのくらい、じゃりン子チエの脚本は技巧的である。

この“技巧的”という高屋敷氏の長所は、初期の脚本参加作であるガンバの冒険にも見られるのだが、年々磨かれ、じゃりン子チエでは凄いことになっている。そして2000年代、2010年代ともなると、非常に熟練されたものになっている。

高屋敷氏はキャラの掘り下げも上手いのだが、今回、西のキャラを大いに掘り下げていると思う。丈のためなら、ためらいなく自分の給料を全額差し出すのだという、西の愛情は印象深い。

あと、先述の通り、西、葉子、段平の、それぞれの“愛”が上手く対比されている。対して、丈の(主にカーロスに対しての)“愛”も、しっかりと今回の話の芯となっている。こういった所も、きっちり計算されていて凄い。

今回は、本作における高屋敷氏の脚本回の最初だが、長年一緒に仕事した出崎統監督との折り合いの良さか、スムーズに話がシリーズに組み込まれている。きっちりとした構成やキャラの掘り下げなど、あらためて同氏の“技術”を感じる回だった。