カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

じゃりン子チエSP話脚本:心のケアの基本

アニメ『じゃりン子チエ』は、はるき悦巳氏の漫画をアニメ化した作品。小学生ながらホルモン屋を切り盛りするチエを中心に、大阪下町の人間模様を描く。監督は高畑勲氏。

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本記事を含めた、じゃりン子チエに関する当ブログの記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%98%E3%82%83%E3%82%8A%E3%82%93%E5%AD%90%E3%83%81%E3%82%A8

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  • 今回の話:

演出:三家本泰美氏、脚本:高屋敷英夫氏。

特別編(元になっている原作も番外編)。
ジュニア(お好み焼き屋・百合根の飼い猫)と小鉄(チエの飼い猫)の過去が明かされる。

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ジュニア(お好み焼き屋・百合根の飼い猫)は、テツ(チエの父)の一日を観察。
テツが野球をするが、高屋敷氏は野球経験者。そのためか、原作より野球描写が具体的。同氏は、ど根性ガエル(演出)、ワンダービートS(脚本)で野球回を、野球アニメであるワンナウツグラゼニでシリーズ構成・脚本を担当している。

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夜、ジュニアは小鉄(チエの飼い猫)に、テツの一日の充実(?)ぶりを語る。月が映るが、ストロベリーパニック・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)ほか、全てを見守るような月は頻出。

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ジュニアのテツ観察報告は続く。
テツは拳骨(テツの恩師)の家に来て、渉(拳骨の息子で、チエのクラスの担任)に天丼の出前を頼むよう強要したとのこと。飯テロは頻出。柔道讃歌(コンテ)、グラゼニMASTERキートンカイジ2期(脚本)と比較。

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その後拳骨に怒られたテツは、拳骨に仕返しすべく落とし穴を掘った。それを見たジュニアは、テツの充実ぶりに感心したと語る。思い悩みそうなジュニアのため、小鉄は別の話をしようと提案する。メンタル問題を抱える親友をフォローするのは、おにいさまへ…(脚本)でも印象的。

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いつも身につけているスカーフについて小鉄に聞かれたジュニアは、自身の過去話を語る。

淀川付近で頭角を現していたジュニアは、ある日、横暴な犬・デンプシーを倒す。弱者に強権を振るう者に果敢に立ち向かうキャラの勇姿は、カイジ2期(脚本)でも強調されている。

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だが、ジュニアの行動は、人間には害とみなされ、ジュニアの仲間は人間に捕えられ保健所で殺されてしまう。ジュニアの弟分・三公もまた、ジュニアの腕の中で死ぬ。大切な者を失う悲しみは、ルパン三世3期(脚本)でも描かれている。

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ジュニアは、仲間を死に追いやった首謀者の家で、嫌がらせの限りを尽くし復讐する。その時の証(首謀者のガウンの切れ端)がスカーフなのだとジュニアは語るが、小鉄はいつの間にか寝ていた。寝るのはアニメオリジナル。可愛く寝るのは、ストロベリーパニック・F-エフ-(脚本)ほか、結構ある。

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小鉄のリアクションにぷんすかしながら帰路につくジュニアであったが、テツが拳骨のために掘った落とし穴に落ちてしまい、最悪だと嘆く。これは終盤への伏線になっている。伏線扱いにしたのはアニメオリジナルで、構成の巧みさに感心させられる。

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翌日、小鉄は過去の自分の夢を見る(アニメオリジナル)。ここは、小鉄の必殺技(相手の睾丸を取る)を、わかりやすく説明しており、上手い。

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目が覚めても、小鉄はまだまだ(野良猫時代の)過去を思い出す。ここも、原作を超手短にまとめており、構成や編集が上手い。
そんな中、偶然通りかかったジュニアにせがまれ、小鉄は、“月ノ輪の雷蔵”と呼ばれていた時代の話を語り出す。

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ここから小鉄の回想に入る。
かつて小鉄は気ままに旅をする野良猫で、色々あって、気付けば北国に来ていた。地図が出るアニメオリジナル演出があるが、地図が出ることは多い。空手バカ一代(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

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北国に着いた小鉄は、アカギレを起こした額の傷をガムテープで隠す。そんな中彼は、焚き火をしている老猫と出会う。MASTERキートン(脚本)でも、老人と焚き火を囲む場面が印象深く描かれている。

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老猫は、北国を牛耳る猫・芋丸と、“月ノ輪の雷蔵”の決闘を見に来たのだという。もちろん、その雷蔵は偽者。

決闘当日、小鉄は老猫と一緒に、決闘を観戦する。ここのまとめ方や、一旦現在に戻る時系列操作が見事。

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決闘は、ニセ雷蔵の勝ち。その後、暴君にならないよう、小鉄はニセ雷蔵の片玉を取る。その事を小鉄は老猫に告げ、自分の額の傷を見せる。老猫は、小鉄が本物の雷蔵だと気付く。こういった“男のかっこよさ”は、カイジ2期(脚本)や宝島(演出)でも強調されている。

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ここで回想は終わり、現在に戻る。
小鉄とジュニアは、店のガス台を質に入れようとして、おバァはん(チエの祖母)とチエに叱られるテツを見かけ、笑う。笑うのはアニメオリジナル。あんみつ姫・トンデケマン(脚本)ほか、皆で笑う事の大切さは前面に出る。

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さらにテツは、ジュニアの仕掛けた落とし穴にはまる。ジュニアは仕返しできたと歓喜する(アニメオリジナル。先の伏線回収)。
ここも、笑う事の重要性が出ている。
元祖天才バカボン(演出/コンテ)、ストロベリーパニック(脚本)でも同様の主張が見られる。

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小鉄は色々と呆れ、草をちぎって風に乗せて飛ばす(アニメオリジナル)。同様の所作がF-エフ-(脚本)にもある(こちらもアニメオリジナル)。高屋敷氏の好む動作なのかもしれない。

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  • まとめ

原作である番外編から、色々な箇所・エピソードをピックアップし、うまく一本の話にしている。構成や編集、伏線の張り方など、とにかく使われている技術が高度で見事。

うまくまとまっているだけでなく、生きていく上で「笑う事」は大切なのだという、高屋敷氏がよく出すメッセージが付加されている。原作を踏襲しながら、さりげなく自身のテーマもじわじわと出す手腕には、いつも唸らされる。

原作でも、主にジュニアを中心にした、メンタル問題に関する鋭い描写は目立つが、高屋敷氏も、担当作を通じて、メンタル問題に長年がっつり取り組んでいる。その相乗効果により、メンタル問題の基本的ケアが浮き彫りになっている。

そもそも高屋敷氏が飯テロにこだわるのは、おそらく自身がグルメなのもあるだろうが、“食べること”はメンタルケアの基本中の基本だからだという面も大いにある。
本作でも他の作品でも、それは強く出ている。

そして、“笑うこと”の大切さも、多くの作品で強く主張されている。メンタル不調に“笑う”ことが効くのは、実際にも言われていることであり、それが数十年前から主張されているというのは、本当に驚かされる。

また、「孤独でないこと」もメンタル回復に重要なわけだが、これに関しても、アンパンマン(脚本)などのキッズアニメから、おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)などの青少年・大人向けにいたるまで、高屋敷氏は長年、強く訴えている。

まとめると、「よく食べ、よく笑い、孤独でないこと」が「心の健康」の基本ということになる。また、それがないと最悪、死に至る(自殺など)ことも、数々の作品を通し、高屋敷氏は主張している。

「心の問題」が重視される昨今、こういった、高屋敷氏の鋭い主張はリアルに心に響く。同氏が何十年と積み上げてきたものに、やはり敬服しきりである。