カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

じゃりン子チエ63話脚本:二人の師

アニメ『じゃりン子チエ』は、はるき悦巳氏の漫画をアニメ化した作品。小学生ながらホルモン屋を切り盛りするチエを中心に、大阪下町の人間模様を描く。監督は高畑勲氏。

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本記事を含めた、じゃりン子チエに関する当ブログの記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%98%E3%82%83%E3%82%8A%E3%82%93%E5%AD%90%E3%83%81%E3%82%A8

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  • 今回の話:

演出:三家本泰美氏、脚本:高屋敷英夫氏。

団員がテツ(チエの父)と喧嘩したとして、難波大学応援団の副団長や団長(一霧)が、チエ宅(ホルモン屋)を訪ねてくる。

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テツ(チエの父)はミツル(テツの幼馴染で、警官)の自転車の後ろに乗り、先日自分を襲った犯人を探す。
グラゼニ(脚本)、ど根性ガエル(演出)ほか、スキンシップ多めの友情は強調される。

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テツは、通るのに邪魔だった学生を蹴飛ばし、その学生と喧嘩になる。乱闘騒ぎの描写については、F-エフ-(脚本)のアニメオリジナル場面や、空手バカ一代(演出/コンテ)を彷彿とさせる。

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一方チエは、襲撃で追った傷を隠すため、テツが帽子を頭に接着したと、おバァはん(チエの祖母)に話す。原作では、これの前に、ミツルと、おバァはんの会話があるが、アニメではカットされている。だが、不自然さを感じさせないのが良い。

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同じ頃、小鉄(チエの飼い猫)は、ここ数日挑戦していた知恵の輪を解いて大喜びし、ジュニア(お好み焼き屋・百合根の飼い猫)を呆れさせる。宝島(演出)、ワンナウツ(脚本)ほか、喜ぶ姿が可愛い場面は多い。

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小鉄から離れたジュニアは、池から泳いでくる猫を見かける。その猫は、頭にタオルを巻いた猫(釜虎)に知恵の輪を解けと言われ、解けないでいると、石を背中にくくりつけられ池に落とされたと話す。ここは原作からの台詞の取捨選択が上手い。

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小鉄は、チエに知恵の輪が解けたと報告するが(注:言葉は通じない)、チエは忙しく、相手にしてくれない。ここは小鉄が可愛い。まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ガンバの冒険(脚本)ほか、とにかく動物の可愛さは目立つ。

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チエは、先日テツを襲った犯人に向け、テツは現在不在だし、また放火したら死刑になるという警告文を出す。ここも、宝島(演出)、花田少年史(脚本)などと同様、手伝う小鉄の可愛さが際立つ。

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そこに、難波大学応援団の副団長が訪ねてきて、昼間に団員がテツと喧嘩したと聞いた…と話し、瓦を割って力を誇示する。
原作通りだが、瓦割りといえば空手。高屋敷氏は、コンテや演出で空手バカ一代に参加している。

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そんな中、テツが帰宅。副団長は再び瓦割りをするが、テツは喜び、彼に応戦し圧倒する。ここもまた、高屋敷氏が空手バカ一代に(演出やコンテで)参加したことを踏まえると面白い。

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更にジュニアが、知恵の輪勝負をしかける猫(釜虎)のことを報告しにくる。小鉄は、自分が知恵の輪に夢中になっている間に色々あったことを悟る。ここも、カオスな状況であっても、情報の整理の仕方が上手い。

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その後、ジュニアと小鉄は、こっそり釜虎の様子を窺う。ここの会話も、色々な情報が整理・圧縮され、テンポがいい。

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釜虎は、通りがかった猫に、ここは自分の縄張りになったとして、助かりたくば知恵の輪を解けと持ちかける。
原作通りだが、命がけのゲームといえばカイジ・アカギ(シリーズ構成・脚本)と重なるものがある。

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結局その猫は、知恵の輪を解けず、釜虎に石をくくりつけられ、池に落とされる(すぐに小鉄が救出)。また、釜虎は、額に三日月の傷がある猫(=小鉄)を探していることが判明する。ここも情報がコンパクトにまとまっているのが凄い。

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一方カルメラ兄弟(テツの弟分)はチエに、テツを襲った犯人は猫(釜虎)ではないか…?と、テツが釜虎にやられた時の話をする。
このやりとりも、原作にはない回想場面を織り混ぜるなどして、長台詞ながら冗長にならない工夫が施されている。

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そこに、難波大応援団長の一霧が、多くの団員を従えてやってきて、カルメラ兄弟は離脱。一霧は義理堅く礼儀にうるさい人物。どことなくキザでもある。キザといえば、高屋敷氏は、ダンクーガで、キザな一面がある亮(レギュラーの一人)の初登場回の脚本を担当している。

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一霧は、(テツにやられたので)いきり立つ副団長を木刀で殴って気絶させる。
部下に厳しいといえば、カイジ(シリーズ構成・脚本)の兵藤(ラスボス)を彷彿とさせる。他の作品でも、部下に厳しい敵役は、しばしば見られる。

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その後、ヨシ江(チエの母)が帰宅。一霧は、ヨシ江の美しさに動揺して、木刀を取り落とすが、なかなか拾えない。手による感情表現は、ワンナウツグラゼニ(脚本)ほか頻出。

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チエから、ヨシ江はテツの妻だと聞かされ、色々勝手に想像してしまった一霧は、「許せん」と叫ぶのだった。
怪物王女らんま1/2(脚本)ほか、高屋敷氏は、ちょっとズレた敵キャラの描写も上手い。

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  • まとめ

 今回も、話の情報量が多いのに、スッキリとまとまっている。これもまた、原作のどこを削り、どこを増やすかの工夫の賜物だと思う。つくづく、原作つきアニメは、原作をなぞるだけでは面白くならないことがわかる。

 あと今回は、バトル要素が多めで、空手バカ一代と比べると楽しい。また、バトルと言っても、5W1Hがしっかりとしており、脚本技術の高さを感じさせる。

 一方で猫側の、命がけのゲーム(知恵の輪)は、アカギ・カイジ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)を彷彿とさせる。これも縁なのだろうか。とにかく同氏は、動きがあまり無くても緊迫した状況を表現するのに秀でる。

 今回で、本作における高屋敷氏の脚本回は最後となる(次回が最終回)。同氏の脚本担当数としては3番目に多い(最も多いのはF-エフ-全31話、次に多いのはグラゼニ全24話)のが興味深いところ。

 再三書いているが、本作は、高屋敷氏にとって大きなターニングポイントとなったのではないだろうか。脚本の密度的なものは、本作から大幅に上がった気がする。

 今まで、出崎統氏との仕事が多かった高屋敷氏が、本作を通じて高畑勲氏(本作監督)と仕事をしたのも非常に大きい。
同氏は本作にて、高畑氏から色々吸収をしつつ、出崎統氏の技術も積極的に持ち込んでいる。アニメ史的に見ても貴重。

 高畑氏は高学歴(東大卒)のインテリとして知られているが、それもあってか、計算しつくされた作品作りが持ち味。高屋敷氏も、緻密な計算が成された脚本を書くので、本作は、その相乗効果が凄いことになっている。

 ジブリに行ってからは後続を育てなかったと言われる事もある高畑氏だが、本作においては、高屋敷氏をはじめ、多くの人に影響を与えているのが、見ているとわかる。少なくとも、本作の時点ではワンマンではない(異常な拘りは感じる)。

 とにかく、「動きが少なくても見入る話作り」「緻密かつ複雑なプロット」「シリーズ全体の繋がりを常に考慮」など、カイジ(アニメ)のシリーズ構成・脚本にも言える要素が、本作には詰まっている。だから、本作が無ければ、カイジもないのだ。

 つくづく、本作で高畑氏と高屋敷氏が仕事をしたことに感謝したいと思う。これも再三書いているが、高屋敷氏にとって、出崎統氏が「演出の師」なら、高畑氏が「脚本の師」だと思う。あらためて、高畑氏に哀悼の意を表したい。