カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

DAYS9話脚本:いつだってピーク

アニメ『DAYS』は、安田剛士氏の漫画をアニメ化した作品。高校からサッカーを始めた柄本つくしを中心としたサッカー物語。監督・シリーズ構成は宇田鋼之介氏。

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  • 今回の話:

サブタイトル:「お前の声が届くトコまですぐ押し上げてやる」

コンテ:竹之内和久氏、演出:タチバナコウスケ氏、脚本:高屋敷英夫氏。

つくしが属する聖蹟高校サッカー部は、インターハイ東京予選決勝で強豪・桜木高校サッカー部と激突。

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つくし属する聖蹟高校サッカー部は、インターハイ東京予選決勝の日を迎える。
試合前、つくしは風間(つくしの親友で、サッカーの天才)の手を握り鼓舞する。手から手への感情伝達の強調は多い。ストロベリーパニックワンナウツ・F-エフ-・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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風間は、口元に笑みを浮かべる(アニメオリジナル)。「原作にない笑顔」は、要所要所で目を引く。グラゼニRIDEBACKワンナウツ(脚本)と比較。

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つくしは、風間の手が熱を帯びていたことを心配し、風間もまた、自分のテンションがおかしい事に気付くが、それが“高揚”だと自覚。ここでもアニメオリジナルの笑顔(画像上段左)がある。おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-・RIDEBACK・F-エフ-(脚本)と比較。

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風間は桜木高校(決勝の対戦相手。強豪)の守備陣をぶっちぎってシュートするが、惜しくもカットされる。ギャラリーは歓声を上げる。背番号の「間」があるが、背中が「語る」表現はよく見られる。ワンナウツあしたのジョー2・グラゼニカイジ2期(脚本)と比較。

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犬童(桜木高校サッカー部キャプテン)は、聖蹟高校サッカー部は、つくし・風間という新風により変わったと分析。ほぼ原作通りだが、ライバルによる解説は、はじめの一歩3期・あしたのジョー2(脚本)同様、テンポがいい。

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今度は、桜木高校のエースストライカー・成神が無双しシュートまで持っていくが、GKに防がれる。聖蹟のベンチ外メンバーが原作より目立つが、高屋敷氏は、あしたのジョー2・F-エフ-(脚本)で、原作で観客席にいないキャラをアニメで目立たせたり、ギャラリーの扱いが上手い。

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成神は風間を煽るが、(風間の心が折れないので)つまらない、と残念がる。ほぼ原作通りだが、はじめの一歩3期・じゃりン子チエ・F-エフ-・カイジ2期(脚本)など、高屋敷氏は煽りの上手いキャラに縁があり、比較すると面白い。

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その後も成神はピッチを支配し、それを止められない君下(聖蹟サッカー部2年。トップ下)は悔しがる。アニメでは感情が一段階強め。感情の強調は所々見られ、これも興味深い。カイジ2期・グラゼニ(脚本)と比較。

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成神は、相手の心が折れる音はたまらない、と君下を煽る。煽り方がアニメでは一段階強め。変な体勢で煽るのは、(原作通りだが)はじめの一歩3期・らんま1/2(脚本)と重なる。

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そんな中、ピッチの外に出たボールを渡す際、つくしが君下を鼓舞する。ボールを渡す場面の強調が見られる。
ボールを介した感情伝達は、おにいさまへ…ワンダービートS(脚本)も印象深い。

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君下は、何故敵陣の方まで来てるんだと、つくしにツッコミを入れる。小百合(つくしの幼馴染)がアニメオリジナルで映るが、ここもやはり、あしたのジョー2・F-エフ-(脚本)など、原作と異なるギャラリー描写をこなしたことと重なってくる。

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君下は、聖蹟陣に戻れと、つくしに促すが、すぐにお前の声が届く所まで(陣を)押し上げてやる、と宣言。優しかったり、かっこよかったりする先輩の魅力を出す組み立ては、ストロベリーパニック・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)でも上手い。

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君下は、うちにも“バケモノ”はいる、と、水樹(聖蹟サッカー部キャプテン)にボールを向ける。水樹も「反撃開始だ」と応じる。絶対的存在の先輩描写は、はじめの一歩3期(脚本)、エースをねらえ!(演出)とも重なるものがある。

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ここで一旦、1年生をテストした時の回想が入る。タイミングが原作と違う。高屋敷氏は、時系列操作が巧み。
回想冒頭、意味深な中澤(聖蹟サッカー部監督)の煙草描写(吸殻が10本→11本に)がある(アニメオリジナル)。吸殻表現は結構ある。ワンナウツめぞん一刻(脚本)と比較。

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回想の中で中澤は、1年生のシャトルランテストの感想を水樹に尋ねる。その会話の中で水樹は、ある1年のおかげで時間がかかった、と述べるが、これはアニメオリジナル。さりげなくここで、つくし・水樹の関係性を深めている。

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次に中澤は、風間について水樹に尋ねる。原作では「まあまあ」だが、アニメでは「うまいですよ」と、水樹は返す。レトルトカレーの「美味い」とかかっており上手い。
また、飯テロは実に多い。コボちゃん(脚本)、宝島(演出)と比較。 

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臼井(聖蹟サッカー部3年。副部長)は水樹に、嬉しそうだねと声をかける。臼井の台詞はアニメで追加があり、臼井と水樹の関係性が掘り下げられている。キャラの掘り下げは高屋敷氏の十八番。

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あれ(つくし)は雑草タイプと、水樹がつくしを評した所で回想は終わり、(現在の)つくしが映り、水樹はシュートを放ち、CKを獲得。
こういった時系列操作(原作と回想の位置が異なる)が高屋敷氏は上手く、効果的にできている。

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CKを蹴る君下は、ピョンピョン飛んでアピールする水樹に「子供か」と呆れる。
ほぼ原作通りだが、高屋敷氏は、キャラの子供っぽさ・無邪気さの表現に秀でる。ワンナウツあしたのジョー2(脚本)と比較。

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合理的に(ボールを上げる)相手を選ぼうとする君下だったが、自然と(?)水樹に合わせる。水樹はそれに応じ、オーバーヘッドキックシュート。GKに弾かれるが、再びCK獲得。犬童が水樹を警戒するのはアニメオリジナル。試合内容の補完は、グラゼニ(脚本)にも見られる。

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大柴(聖蹟サッカー部2年。現時点ではFW)は、(怪我明けで)久々ですもんね、気合い入ってますねと水樹に声をかけるが、水樹は「初めてだけど」と謎回答。原作通りだが、後輩と先輩の天然な掛け合いは、ストロベリーパニック(脚本)を彷彿とさせる。

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中澤はつくしに、水樹に「(思いを)伝えたい奴がいます」と試合前言われた、水樹はつくしに何かを伝えようとしている、と言う。先輩から後輩へ思いを伝えるのは、ストロベリーパニック・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)でも強調されている。

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一方水樹は、困難な道を行けという、亡き祖父の言葉を思い出す。
F-エフ-(脚本)、宝島(演出)ほか、優しかったり、的確な助言をくれたりする老人は強調される。

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水樹は、つくしの生き方は困難だが正しい、努力は決して裏切らない、というメッセージを込めてシュートを放ち、見事先制点を決める。ストロベリーパニックじゃりン子チエ(脚本)などでも、キャラのかっこよさを盛り立てる組み立てが上手い。

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灰原(聖蹟サッカー部3年。右サイドバック)は歓喜して水樹に抱きつき、水樹はそれを受け止める。これは原作の行間を埋めるアニメオリジナル。グラゼニ・F-エフ-(脚本)ほか、アニメオリジナルのハグはよく出る。

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中澤は、水樹の思いは伝わったか、とつくしに問うと、つくしは真剣な表情で「はい」と答える。ほぼ原作通りだが、少年が「男」になる瞬間を切り取るのが高屋敷氏は非常に上手い。家なき子・宝島(演出)と比較。

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生方(聖蹟サッカー部1年。マネージャー)は、これで終わるとは思えない、桜木高校の逆襲が始まる…と危惧するのだった(アニメオリジナル)。試合をまっすぐ見つめる強い女性キャラは、あしたのジョー2(脚本)でも印象的。

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  • まとめ

 まだつくしはピッチ外だが、つくしを想うキャラ達が丁寧に描かれる。また、色々なキャラとキャラの関係性を、アニメオリジナルを加えながら掘り下げているのも流石。

 まるで乙女ゲームの主人公のように、つくしは次々と魅力的な友達や先輩と交流するが、このフォーマットは、おにいさまへ…(高屋敷氏脚本・シリーズ構成陣)やストロベリーパニック(同氏脚本参加)と重なる。高屋敷氏の得意分野かもしれない。

 それにしても、その「交流」はバラエティーに富み、どれも濃厚で、1話内(約22分)に収まっているのが信じられない。高屋敷氏の、話を圧縮する技術にも、毎度驚かされる。

 ストロベリーパニック(高屋敷氏脚本参加)の百合世界を、男性キャラでやっているような雰囲気が展開される一方、君下や水樹の「漢(おとこ)のかっこよさ」を盛り立てる手腕も凄い。こちらはこちらで、出崎統氏と長年仕事し磨かれた職人技。

 また、先に述べた通り、高屋敷氏は少年が「男」になる瞬間を切り取るのが非常に上手く、そのための「組み立て・組み上げ」も見事。もはや「凄み」を感じる。

 そして、巧みな時系列操作。漫画とアニメでは、回想の挿入タイミング一つ取っても、媒体が異なるため、アニメでそのままやるのと、アニメ用に組み直すのとで大分趣が異なる。高屋敷氏は、媒体の違いを熟知している節がある。

 私は、グラゼニ(高屋敷氏シリーズ構成・全話脚本)が高屋敷氏の集大成的な作品であると思っていたが、こう見ていくと、DAYS(同氏脚本参加)も、「その時」の同氏の「集大成」たる見事な技術が使われているのに気付く。

 意外にも本作は、おにいさまへ…(高屋敷氏脚本・シリーズ構成陣)・ストロベリーパニック(同氏脚本参加)の系譜だが、本作がなければグラゼニ(同氏シリーズ構成・全話脚本)もないのだ。

 おにいさまへ…(高屋敷氏脚本・シリーズ構成陣)とグラゼニ(同氏シリーズ構成・全話脚本)には色々と共通性がある(アニメオリジナルの仲良し関係、ナレーションが主人公など)のだが、どうしてそうなったかの過程に本作を置くと、色々と合点が行く。

 それだけ高屋敷氏が、その時その時の、目の前の作品に全力投球しているということなのだろう。年を経ると下降する作家もいるなか、「新作がいつだってピーク」という姿勢には、やはり脱帽するし、いちファンとして嬉しい限りなのである。